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Channel: 弁護士植村幸也公式ブログ: みんなの独禁法。
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流取ガイドラインの競争者間の総代理店契約の規定の削除について

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あまり大きな話題になっていませんが、2017年の流通取引慣行ガイドラインの大幅改正(構成が大きく変わっただけで中身はあまり変わっていませんが)では、それまであった「第3部 第1 競争者間の総代理店契約」の規定が全面削除されました。
 
改正以前のガイドラインでは、
 
総代理店の市場シェアが10%以上かつ上位3位以内の場合、競争阻害効果が生じることがある
 
総代理店の市場シェアが25%以上かつ1位の場合、競争阻害効果が生じることとなるおそれが強い
 
として、競争阻害効果が生じる場合には不公正な取引方法(拘束条件付取引)にあたる、とされていました。
 
この競争者間の総代理店契約に関する規定の削除については批判もあり、パブコメ質問137番では、
 
「改正(案)では,現行ガイドライン第3部第1「競争者間の総代理店契約」の項目が削除され,これに伴い競争者間の総代理店に関するセーフ・ハーバー(市場におけるシェア10%以上かつ上位3位以内)も廃止されている。
 
しかし,「流通・取引慣行と競争政策の在り方に関する研究会」報告書では,「総代理店を取り巻く環境・実態は変化しており,更に実態把握を行う必要がある」と結論付けるのみであり,上記削除・廃止を行うべき根拠は明確に示されていない。
 
総代理店契約は引き続き利用されることのある取引形態であり,判断基準の明確性が求められることから,現行ガイドラインの記載を維持すべきである。(団体)」
 
という、至極まっとうな質問がなされていて、これに対する公取委の回答は、
 
「御指摘については,本指針が制定された当時に問題視されていた輸入品の内外価格差は,現在においてそれほど大きな問題とはなっていないと考えられること,第3部第1の考え方に基づき法的措置を採った事例はないことなどを踏まえ,本年3月に開催した本研究会でも議論した結果,記載を削除することとしました。
 
なお,競争者間で総代理店契約が締結されることにより,仮に我が国市場における競争を実質的に制限するようなケースが生じる場合には,独占禁止法3条の観点から検討されることとなります。」
 
というものです。
 
そもそも競争者間の代理店契約は不当な取引制限として処理すべきなのであって、拘束条件付取引で処理していた旧ガイドラインは理屈としてはおかしいのですが、それはさておくとしても、わたしも全面削除するまでのことはなかったんじゃないかという気がします。
 
この点についてはさらに、 
 
佐久間正哉編著『流通・取引慣行ガイドライン』
 
で、
 
「こうした〔競争者間の総代理店契約については法的措置がなされたことも相談事例で回答されたこともないという〕状況等を踏まえ、平成29年のガイドライン改正では、第3部のうち競争者間の総代理店契約に関する部分は削除・・・することとなった。
 
もちろん、ガイドラインから記載が無くなったことで、競争者間の総代理店契約は独占禁止法の適用対象外になったというわけではない。
 
競争者間の総代理店契約によって市場における地位が高まったことを背景として、不当な取引制限や私的独占が行われる場合には、当然に独占禁止法上問題となり得るものである。」(p232~233)
 
と解説されています。
 
でもこれを文字どおり読むと、総代理店契約自体は問題なくて、それにより市場支配力が高まって、不当な取引制限や私的独占が行われれば、不当な取引制限や私的独占の部分だけが問題となる、といっているように読めます。
 
というか、そうとしか読めません。
 
でも、理屈としてはこれはおかしいと思います。
 
もちろん、国内最大手の競争者は顧客ベースも販路も営業リソースも持っているでしょうから、外国企業が最大手企業を総代理店に任命することで大きな売上を期待できる、ということは十分にありうることなので、結果的に、外国会社が国内最大手企業を総代理店に指名しても独禁法上は問題ない(競争促進的である)ということは、大いにありえます。
 
でもやはり、競争者を総代理店に任命する(その結果、外国企業は他の代理店を任命したり、自ら直接販売したりできない)ということには、それ自体に反競争性が認められることも、十分にありえます。
 
なので、上記佐久間の解説は、理屈としてはおかしいと思います。
 
ですが、これだけ公取と公取関係者が総代理店は問題視しないとはっきりいっているわけですから、実務上のリスクはずいぶんと下がったと言えるのではないかと思います。
 
公取は、ガイドラインや相談事例で建前では非常に厳しいことをいいながら、実際には問題視しない、ということがこれまで多く、流通取引慣行ガイドラインはその筆頭だったのですが、公取委が正面から規定を削除することで事実上問題視しない姿勢を明らかにするということは、たいへん珍しいことです。
 
というわけで、これはこれで、好ましい流れなのかもしれません。
 
ただそれでも、競争者間の総代理店契約にはそれ自体反競争性が認められることがありうる(その代理店に頼むことで売上増大が見込める効果と、その代理店に頼むことで当該代理店の商品との間の競争が無くなり価格が上昇する効果とのバランス)ので、ガイドラインの規定がなくなったとはいえ、競争法上の分析は必要なんだろうと思います。
 
そしてその時に、旧ガイドラインの「シェア25%かつ1位」といった基準は、それなりに意味があるのではないかという気がします。
 
それでも、外国事業者が単独で参入した場合にどれだけのシェアを取れると見込めるかとか、ほかに代理店候補はいないのか、などを考慮する必要はあるものの、シェア25%くらいで問題視するのは、セーフハーバーとして厳しすぎて、実際には、シェア40~50%くらいまで大丈夫じゃないか、という感じがします。

東京都の措置命令事件に消費者庁が課徴金を課した事例

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ストッキングをはくだけで脚が細くなるなどの不当表示をして東京都から措置命令を受けていた(株)ギミックパターンという会社に対して、消費者庁から課徴金納付命令がなされました
 
都道府県知事には課徴金納付命令の権限がないので、都道府県が調査した案件に課徴金を課すべきことがわかったときにはどうするのか気になっていたのですが、この点については、2014(平成26)年8月26日第170回消費者委員会本会議において、白石座長代理から、
 
「都道府県知事には措置命令権限はあるが課徴金権限がないということは、その事件については消費者庁が受け取って課徴金の手続をするということになるのでしょうか。
 
非裁量制なので必ず手続に入るということなのか、どうなのか、その点を伺えればと思います。」
という質問があり(議事録p14)、これに対して、消費者庁松本課徴金制度検討室企画官から、
 
「・・・今、考えているのは、課徴金納付命令に関する手続については、消費者庁で行うということでございますので、仮に都道府県における措置命令において課徴金を課すべき対象があるとすれば、これは消費者庁のほうで対応していくことになるかと思います。」
 
という回答がなされていました(p15)。
 
さらに続けて河上消費者委員会委員長から、
 
「基本的には、措置命令と課徴金に関する手続というのは、別個に動いていると理解することになるのですか。」
 
という質問がなされ、これに対して消費者庁菅久審議官から、
 
「考えておりますのは、例えば都道府県が調査している場合。
 
1 つは、今回の法改正を受けて都道府県が担当するのは県域内の違反行為となりますので、そもそも規模基準とかいろいろ考えますと、課徴金の対象になるものが少ないのではないかと思っています。
 
ただ、都道府県が調査した途中の段階で、これが措置命令の後、課徴金納付命令の対象になり得ると判断した場合には、消費者庁にそこで通知ないし知らせてもらうと。
 
そこから先、消費者庁が調査する。つまり、措置命令を都道府県が出して、その後受け取って課徴金額を計算するというのは実務上、非常にやりにくいですので、むしろ途中の段階でわかった場合には、消費者庁のほうに移管なり連絡をしてもらうことを想定しています
 
ただ、実際上は県域内の違反行為にとどまりますので、都道府県の対象の事件で課徴金納付命令の対象になるものは少ないのではないかと思っております。」
 
という回答がなされていました(p15)。
 
こういう回答があったので、私はてっきり、都道府県が調査した案件で売り上げ規模が課徴金対象となるくらいに大きければ消費者庁に移管されるのだと思っていました。
 
でも今回のギミックパターンの処理をみると、東京都で措置命令まで出して、課徴金だけ消費者庁がかける、というようになっています。
 
法律上は、課徴金対象となるくらい違反売上が大きい事件に都道府県が措置命令を出していけない理由は何もないですし、大型事件は消費者庁に移管するあつかいにすると、かえって都道府県は小粒の事件しか扱えなくなってしまって、実質的には改正により権限が縮小してしまったようになり妥当ではありません。
 
なので今後は、本件のように、都道府県で措置命令を出して、消費者庁が課徴金納付命令を出す、という運用が定着するのではないかと思われます。
 
それから菅久審議官の
 
「今回の法改正を受けて都道府県が担当するのは県域内の違反行為となります」
 
という部分も、考えてみるとそのようなしばりは法律上なにもなくて、公表された東京都の措置命令概要をみても、ギミックパターンの不当表示は同社ウェブサイト上のものなので、違反行為が東京都内に限って行われたというわけではありません。
 
おそらく被害者が東京都に集中しているということもないでしょう。
 
同社の所在地は東京都ですが、それはどの都道府県が(あるいは消費者庁と都道府県のいずれが)処理すべきかという問題とは、あんまり関係ないでしょう(執行のしやすさという意味では関係ありそうですが)。 
 
この事件は課徴金額も8480万円と、けっこうな金額です(三菱自動車の4億8507万円、プラスワン・マーケティングの8824万円についで、歴代3位です)。
 
というわけで、この事件は都道府県でも大きな事件を摘発するんだという先例となるものであり、大変意義深いと思います。 
 
でも考えてみると、大型案件は消費者庁に移管、というのは、消費者庁の都合なのであって、都道府県にしてみらたら、せっかく内偵までして手間暇かけて調査したのに、課徴金がかかるとわかったとたんに手柄をぜんぶ消費者庁に取られてしまうわけで、そんな制度だと都道府県のやる気が萎えてしまうと思います。
 
また、都道府県が仮に消費者庁に移管しても、措置命令もまだ出ていないわけですから、消費者庁が握りつぶしてしまう(というと聞こえは悪いですが、注意にとどめる)ということも、可能性としてはありうるわけです。 
 
これに対して都道府県が措置命令まで出してしまえば、課徴金は義務的ですから、消費者庁はどうしたって課徴金を課さざるを得ないでしょう。
 
つまり、今回のような運用だと、都道府県が掘り起こした案件を消費者庁が握りつぶしてしまう(あるいは、注意にとどめてしまう)ということができないわけです。
 
というわけで、この、措置命令の権限を都道府県に与えつつ、課徴金は消費者庁でしかも義務的、という制度は、正式事件の掘り起こしという意味では、じわじわと効いてくる制度なのかもしれません。

共同研究の成果の特許等の実施料の取り決め

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共同研究開発ガイドライン第2-2(2)③では、
 
「成果の第三者への実施許諾に係る実施料の分配等を取り決めること」
 
が、原則として不公正な取引方法に該当しないと認められる事項とされているます。
 
たとえば、A社とB社が共同研究をして開発した特許をライセンスする場合、そのライセンス料を50%ずつで分け合うことを合意することは、問題ない、ということです。
 
ではその前提として、そもそもライセンス料を両社共同で決めることについては問題ないのでしょうか。
 
このことについてはガイドラインには明記されていないのですが、ガイドラインの立案担当者による、平林英勝編著『共同研究に関する独占禁止法ガイドライン』p91に、
 
「成果の貢献に応じた実施料の分配の前提として、必要な範囲で成果の第三者への実施に係る実施料を取り決めることは問題ないと考えられよう。」
 
と、問題ないことが明記されています。
 
分配のやり方の合意が問題ないのだから、そもそものライセンス料を決めることも問題ないことが当然の前提になっているのでしょうし、1つの権利(商品)であるからには1つの価格をどうやったって決めざるをえず決める以上は共同で決めるしかない(ここだけカルテルを気にして価格決定をA社に委ねるなんていうのはナンセンス)のですから、当然の結論だと思います。
 
こういうあたりまえのことでもきちんと書いておいてもらえると、とても助かります。
 
ただ欲を言えば、こんな大事なことはガイドライン本文に書いて欲しいものです。
 
価格を共同で決めることを白条項とすることに抵抗があったのかもしれませんし、うっかり入れ忘れたのかもしれませんが、ともかく、成果の権利自体の許諾価格(販売価格)を共同開発者間で合意することは問題ありません。
 
もしそれが許されないとしたら、元々の共同研究開発参加者の市場シェアが高くて、そもそも共同研究開発自体が独禁法違反だ、という場合くらいでしょう。
 
注意すべき点は、権利自体の許諾価格は共同で決めて良いけれど、権利を用いた商品の価格を共同で決めることは黒条項とされていることです(ガイドライン第3-2(3))。
 
これは、いわば再販売価格拘束のようなものなので、黒条項なのも当然です。
 
ところで、日本には競争者間の協力に関する一般的なガイドラインがないので、この共同研究ガイドラインがいろいろなところで役に立ちます。
 
そういう観点からこのガイドラインをながめてみるといろいろと気づくことが多いです。

公取委への事情聴取への苦情申し立て

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独占禁止法審査手続に関する指針には、「任意の供述聴取に関する苦情申立て」という制度があります。
 
これは、任意の事情聴取(つまり、ふつうの事情聴取)について、
 
「聴取対象者等が,聴取において本指針「第2 2 供述聴取」に反する審査官等の言動等があったとする場合には,当該聴取を受けた日から1週間以内に,書面により,公正取引委員会に苦情を申し立てることができる。」
 
というものです。(第2-4)
 
ここで「第2 2 供述聴取」の「(3) 供述聴取における留意事項」のアでは、
 
「ア  供述聴取を行うに当たって,審査官等は,
 
威迫,強要その他供述の任意性を疑われるような方法を用いてはならない。
 
また,審査官等は,
 
自己が期待し,又は希望する供述を聴取対象者に示唆する等の方法により,
 
みだりに供述を誘導し,供述の代償として利益を供与すべきことを約束し,その他供述の真実性を失わせるおそれのある方法を用いてはならない。」
 
とされています。
 
よって、これら威迫や誘導があった場合は、申立の理由あり、ということになります。
 
公取委ホームページの説明ページでは、これをわかりやすく、
 
「(1) 供述聴取時の手続・説明事項に関するもの
 
(例)供述聴取開始までに任意である旨の説明がされなかった。
 
(2) 威迫・強要など審査官等の言動に関するもの
 
(例)違反事実を認めるまで部屋から出さないと言われ,強引に供述を迫られた。
 
(例)審査官等が期待する供述を行う代償として利益を供与することを示唆された。
 
(3) 聴取時間・休憩時間に関するもの
 
(例)同意なく一日につき8時間(休憩時間を除く。)を超える聴取が続けられ,帰りたいと申し出ても帰してもらえなかった。
 
(4) 供述調書の作成・署名押印時の手続に関するもの
 
(例)署名押印をする前に,審査官等による調書の読み聞かせが行われず,閲読もさせてもらえなかった。
 
(例)調書の訂正を申し立てたが,訂正が行われず,審査官等から訂正しない理由について何ら説明なく訂正しないまま,署名しろと言われた。」
 
とまとめています。
 
これらの説明の「(例)」の中に、実務では最もありがちで指針には明記されている、供述の誘導が含まれていないのはまことに不適切だと思いますが、それは措きます。
 
(こういうのはとても意図を感じますし、法律の世界は何でも条文にあたらないと役所にいいようにされる、という思いを強くします。)
 
苦情申立は聴取日から1週間とされていますが、上記説明ページでは、
 
「ただし,聴取日から一週間以内に,当該審査官等を指揮・監督する審査長等に対して苦情を申し入れており,その後に本制度に基づく苦情申立てを行うときは,当該期間経過後であっても行うことができます。」
 
ということになっています。
 
ごていねいに申立書の様式が準備されていますが(同じページにリンクがあります)、必ずこの書式で出さないと受理されないということもないのでしょう。
 
聴取の場所の記載例は、
 
「公正取引委員会8階 審査局A会議室」
 
などとなっており、そんなことまでふつうは聴取時にチェックしていないはずです。
 
もちろん、ここまで細かく書かなくても何の問題もないでしょう。
 
そもそも同じ役所なのですから、担当の審査局に聞けばすむ話です。
 
なお提出先は14階の官房総務課です。

独禁法の行為無価値と結果無価値

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刑法の世界には行為無価値と結果無価値の争いがあります。
 
法学部では当然のように教わることなのですが、おおざっぱにいうと、行為無価値というのは、動機や行為の悪質性なども考慮して違法性の有無・程度を判断する立場です。
 
これに対して結果無価値は、生じた結果(つまり人が死んだとか)だけに着目して違法性を判断すべきだという立場です。
 
独禁法の世界でも、似たようなことが議論になることがあります。
 
つまり、競争に与えた影響だけを基準に違法性を判断すべきというのが結果無価値的な発想で、行為の動機や悪質性も考慮すべきだというのが行為無価値的な発想です。
 
ところが、公取委の実務では、行為の悪質性だけが(あるいは、悪質性が過度に)違法性判断で考慮されているフシがある、とわたしはニラんでいます。
 
行為と結果の因果関係を重視しない、というのも行為無価値的発想のあらわれといえます。
 
ですが刑法の行為無価値は、けっして、行為の悪質性だけで違法性を判断する立場ではなく、行為の悪質性も考慮するという立場です。
 
ところが公取委の立場は、前述のように、行為の悪質性を専ら考慮または過度に重視しているように思われます。
 
しかも、刑法の場合には、刑法の目的とは、とか、法と道徳の違いとは、といった、深刻な(まじめな)法哲学的対立があるのですが、公取委実務の場合、そのような深遠な議論があるわけではありません。
 
それよりも、私の目から見ると、「こいつはけしからん!」と審査官や委員の方が思って、どれくらい血圧が上がったか(←比喩です)、というのが違法性の基準になっているような気がしてなりません。
 
さらに問題なのは、公取委が違法性を語る場合、経済学的な発想がぜんぜんなかったりします。
 
たとえば他者排除が生じる場合のメカニズムとしては、経済理論上は、競争者の直面する需要曲線を左にシフトさせるか(残余需要を減らす)、あるいは、競争者の費用曲線を上方シフトさせる(ライバル費用の引き上げ)のどちらかなわけですが(グラフをかけばすぐわかります)、そのどちらであるのかすら意識されていないことが多いように思います。
 
(消費者余剰を減らすメカニズムとしてはもう一つ、需要曲線もコストも不変のまま、需要曲線上を移動する、というメカニズムがあり、これは協調促進的行為や競争緩和的行為の場合に問題になります。)
 
それは、関係者に対する質問の内容や、アンケート調査の選択肢などをみればわかります。
 
こういうのをみると、「審査局って、何も分かってないんだなぁ」と思って、がっかりします。
 
話を元に戻すと、公取委の行為無価値的発想の問題は、結果(反競争効果)を軽視しすぎる点です。
 
もう1つの問題は、結果軽視と関連しますが、公取委が、少なくとも審査局レベルでは、経済学をまったく理解していないことです。
 
どのように反競争効果が生じるかというメカニズムは、経済学の知識があると、手に取るようにわかる(2つのメカニズムがはたらくときは、その区別もつく)のですが、審査局レベルでは、そういう知識の片りんもありません。
 
とくに、垂直的制限や排除系の事件をやっていると、そう思います。
 
審査の発想が、反競争性の立証が不要な談合や優越と同じなのです。
 
談合や優越ばっかりやっていると、頭がそういうふうになっちゃうんだろうなぁ、と、しみじみ思います。
 
経済学を分かったうえで行為の悪質性を云々するならまだわかりますが、そもそも分かっていないので、話が通じません。
 
心当たりのある審査官の方は、ぜひ、経済学を勉強してください。
 
あるいは、垂直や排除系の事件のチームには、エコノミストを入れるべきだと思います。
 
それも、産業組織論がある程度わかっているエコノミストを入れるべきです。
 
(経済学者の委員をふくめ、公取委に来るエコノミストのすべてが産業組織論の専門ではありません。日本に産業組織論の専門家は少ないし、そもそも辞めたあとのキャリアが保証されるような役所でもないので、公取に入ってから一生懸命産業組織論を勉強するエコノミストも少なくないと思います。)
 
独禁法の弁護士が経済学を知らなくても、困るのはその依頼者だけですが、公取委の審査担当者が経済学を知らないと、割を食うのは全国民です。
 
審査担当の方には、それくらいの覚悟を持って、審査に臨んでいただきたいと思います。

独禁法で命令を受けるリスクと調査を受けるリスク

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わたしは基本的に、独禁法弁護士は、法律家として、問題の行為が独禁法上違法かどうかが判断できることが大事だし、それでほとんど足りる(それすらもできない弁護士も多い)、と考えています。
 
ですが、世の中、それだけでは足りないことも事実です。
 
というのは、企業にとっては公取委の調査を受けるだけでも、評判(取引先から取引を断られる、新卒学生が採用できなくなる、など)や弁護士費用など、大変なダメージだからです。
 
かつて調査を受けた依頼者の件も、命令がでないことはもちろん、どうみても違反になりそうにないケースでした。
 
予定どおりそのケースは、「問題なし」となりました。
 
それでもその後、その依頼者への萎縮効果たるや、すごいものがありました。
 
カルテルや談合なら、別にきわどいところを攻めなくてもビジネス上大した問題はなく、石橋を叩いても渡らないくらいでちょうどいいのかもしれません。
 
ですが、不当廉売や拘束条件付取引など垂直系の違反行為類型は、正常な競争との違いが紙一重ですから、過剰反応のマイナス効果は大きいです。
 
ホンネをいえば、調査をするかどうかは公取の勝手なので、調査を受けるリスクがあるかないかなんて、どうでもいいと思っています。
 
研究者の方が調査を受けるリスクについて分析しているのも、見たことがありません。
 
ですが、依頼者の方々からそういうアドバイスを求められる以上、それに応える必要がありますし、そういうアドバイスは実務家だからこそできるんだろうなぁ、とも思います。
 
(そいうえば、以前、私が所属する第二東京弁護士会で、独禁法の警告事例の研究発表をされた公取委出向経験のある弁護士さんの発表を聞きましたが、あれは面白かったです。)
 
それでも基本的には、公取委が関心を持つかどうかは理屈だけで割り切れないところがあるので、学問的な研究対象になりにくいし、知的達成感もありません。
 
べつに独禁法の理屈がわからなくても、ある程度経験を積めば、できてしまうアドバイスだともいえます(むしろ、理屈が邪魔をすることがあるかもしれません)。
 
ともあれ、公取委の方々には、企業の方々がそんなところに関心を持つのだということをよくご理解いただいた上で、牽制的な調査や、調査対象行為をやたらと広げることは、謹んでいただきたいと希望します。
 
ほんとうに、事情聴取でこんなことを聞かれましたというだけで、「そんなことまで公取は関心を持っているんだ」と思って、会社の人はびびってしまうのです。
 
(まあそういうときには、「公取も仕事だからいろいろ調べるけど、違反にするつもりはありませんよ」とアドバイスはするのですが。)
 
また、企業のほうも、独禁法とはどういう法律で、公取委とはどういう役所なのかを、よく理解してリスク評価をする必要があると思います。
 
お上のやることは正しいと素朴に考えている企業は、調査を受ける可能性があるならやらない、という判断をするのでしょうが、独禁法の世界でそれをやると、まともな競争ができなくなります。
 
このあたりは残念ながら、外資系企業のほうが、リスクを取りながら競争するのがうまいように思います。
 
日本企業はむしろ、違法であることが明白でも、業界慣行や政治的背景で、やめられないことが多い(やめたほうがビジネス上もメリットがあるにもかかわらず)ように思わます。
 
そのあたりが、ドライに徹しられない、ウェットで、残念なところです。

無料の会員登録で付与するポイントは景品類か?

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先日、とある講習会が終わったあとに質問に来られた方の質問に、
 
「オンラインゲームに無料で登録した人に、ゲームで使えるポイントを付与している。
 
取引付随性がないので景品ではないと整理していたが、消費者庁に念のため確認したら、将来の取引を誘引するので景品類に該当するといわれた。
 
おかしいのではないか?」
 
という質問がありました。
 
あくまで質問者の方からの伝聞ですので、事の真偽は確かめようもないのですが、もし消費者庁の回答がこのようなものだったとすると、私も、消費者庁の回答は間違っていると思いますし、質問者の方にもそのようにお答えしました。
 
質問者の方がご理解されていたとおり、どう考えても、取引付随性がありません(無料の登録は「取引」ではないので)。
 
パターンには、全員にポイントをあげるものと、抽選でポイントをあげるものとがありそうですが、どちらでも同じです(取引付随性がありません)。
 
もしこんなのが景品類に該当するとなると、たとえば、新聞のチラシにクーポン券をつけて、クーポン券持参者にスーパーが50円値引きする、というのも、取引付随性あり、となってしまいます。
 
新聞チラシに付けるクーポン券を、新聞社が費用を負担している(スーパーのチラシではあるものの)場合には、新聞という商品を買わせるためにスーパーで使えるクーポンを景品として付けた、ということも理屈の上ではありえますが、世の中にそのようなクーポンチラシはたぶん皆無でしょう。
 
上記質問のケースでは、そのような新聞社の存在すらなく、どこをどうたたいても、取引付随性は認められません。
 
2つめの、抽選でポイントをあげるパターンも、以前は規制されていたオープン懸賞(取引付随性のない懸賞)と同じです。
 
つまり現在では、取引付随性がない場合には、抽選で応募者に経済上の利益を提供することは、景品規制の対象外です。
 
なので、上記質問の抽選のパターンも、景品類には該当しません。
 
もう一つだけ例をあげれば、もし取引付随性がないのに将来の取引を誘引するからというだけの理由で景品類に該当してしまうとすると、むかしヤフーがヤフーBBをやりはじめたときにモデムを路上で無料で配りまくったような、取引付随性がない行為の典型として語られるようなものまで、景品類になってしまいます。
 
こういう、路上で配る物品は、取引付随性はありません。
 
たまたま手元にあった、長谷川古編『新しい景品規制』p80でも、
 
公道の歩行者を対象とするアンケート調査の回答者の謝礼とか・・・は、仮に顧客誘引手段と認められたとしても、・・・取引付随の要件に該当しない・・・ので規制されることはありません。」
 
と、はっきり書いてあります。
 
今回の消費者庁の回答の意図を忖度すると、
 
モデムはメルカリで転売できるなどそれ自体経済的価値が認められるけれど(なので、配った時点で提供が終わる)、
 
オンラインゲームのポイントはゲームで使う以外価値がので、必ずゲームをすることになるから、将来の有料ゲームという取引に付随するのだ(?)、
 
ということかもしれません。
 
つまり、オンラインゲームのポイントの提供は、実はポイント提供の時点では何も提供されていないに等しく、将来有償のゲームをする段階になってはじめて「経済上の利益」が提供されたとみなされるのだ(?)、という理屈です。
 
いろいろ無理やり考えてみましたが、でもやっぱり、これらの理屈には条文上の根拠がなく、成り立たないと思います。
 
この問題をもう少し深く考えるのに参考になるのが、
 
深町正徳「割引券の提供に関する景品表示法の考え方について」(公正取引587号、1999年)
 
という論文 です。
 
この論文では、1996年4月に行われた割引券に関する規制の変更について説明するものです。
 
簡単にまとめると、A取引に付随してB取引で使える割引券を提供する場合、変更前は、
 
①A取引に付随して割引券を「提供する行為」
 
 
②B取引において「割引券を使用する行為」(わたしはこれは、提供する事業者の側からみて、「割引券を使用させる行為」というほうが正確だと思います)
 
を分離してとらえ、②は景品類の提供にはあたらないが、①についてはあたる、と考えられていました。
 
これに対して変更後は、①も景品類の提供にはあたらないこととされました。
 
これを今回のポイント付与に応用すると、無料の会員登録者にポイントを付与する行為は、
 
①’無料の会員登録に付随(?)してポイントを「提供する行為」
 
 
②’将来ゲームをするときにポイントを「使用させる行為」
 
に分離でき、現在は①’が(有償取引との)取引付随性が認められても景品規制の対象外(②’はもともと対象外)なのだから、いわんや、無償の会員登録に付随するだけなら、景品類に該当するはずがない、ということになります。
 
つまり、将来有償行為に使用する(②)というのに引きずられて提供行為(①)が景品類の提供になるとは考えられておらず、それは運用変更前も変更後も同じだということです。
 
というわけで、いずれにしても、前記消費者庁の回答は誤り、ということになります。
 
もし消費者庁のご担当の方がこのような回答をされているなら、それはまちがいですから、改めていただきたいと思います。
 
もしそのような回答はしていないというなら、今回の記事は訂正しますのでご連絡いただければ幸いです。
 
(不確かかもしれない情報を流すのもどうかなと思いましたが、聞いたところ事実のようでしたし、きわめて実務的なインパクトが大きいと思ったので、書くことにしました。)
 

パートナー就任のお知らせ

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明けましておめでとうございます。
 
1月1日付をもちまして、日比谷総合法律事務所のパートナーに就任いたしました。
 
歴史のある事務所の名前を汚さぬよう、かつ、自分らしさを失わないよう、これからも良い仕事を通じて、依頼者のみなさまのお役に立ち、社会正義の実現に貢献できるよう、精進してまいります。
 
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

手形払いを現金払いに変更した場合の中間利息の控除に関する中企庁QAについて

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2016年12月14日に中小企業庁と公取委が下請代金の支払いの現金化を要請する通達を出しましたが、それにともない、中小企業庁のホームページには、以下のようなQ&Aが掲載されました
 
「Q9: 今までの取引では手形払いであり、この額には手形等の割引料等を加味していません。今回の通達によって手形払いから現金払いに変更した場合、以下のケースは下請代金の「買いたたき」に当たるのでしょうか。
 
(1) 割引料相当分を差し引いて下請代金の額を定めること。
 
(2) 親事業者として資金調達が必要となるので、その資金調達に必要な短期調達金利相当額を下請代金の額から差し引いて下請代金の額を定めること。」
 
以下がその回答です。
 
「手形等の割引料等のコストは、ほとんどの場合に下請事業者が負担しており、結果として額面どおりの現金を受領できない状況にあります。
 
そのため、今般、下請代金はできる限り現金払いとすること等を要請したものであり、
 
(1)や(2)のような変更は、今般の通達発出を含む政府の下請取引の条件改善に向けた取組の趣旨にそぐわないものであって、政府としては、割引料等のコストについて、実質的に「下請事業者の負担とすることのないよう」、下請代金の額を決定することを要請するものです。
 
そのため,手形払いから現金払いに変更した場合、今までの手形と同じ額で支払えば問題はありません。
 
一方、手形払い時の下請代金の額から、(1)や(2)のように割引料相当分や資金調達に必要な短期調達金利相当額等を差し引いて、一方的に通常の対価より低い下請代金の額を定めた場合は、下請代金法の「買いたたき」に該当するおそれがあります。」
 
これは、あまりにもひどい内容です。
 
はっきりいって、下請法の解釈を誤っていることがあきらかです。
 
というのは、下請法の買いたたきは、
 
「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」
 
が要件です(下請法4条1項5号)。
 
つまり、通常の対価より「著しく」低いことが、要件なのです。
 
ところが、上記Q&Aでは、たんに「低い」だけで違反になりうるとされていて、「著しく低い」ことが要件になっていません。
 
しかもその理由として、前記通達が、
 
「割引料等のコストについて、実質的に「下請事業者の負担とすることのないよう」、下請代金の額を決定することを要請する」
 
を理由にしていることからすると、「著しく」を省いたのが、うっかりミスや誤記ではなく、意図的なものであったことがわかります。
 
さらに、
 
「今までの手形と同じ額で支払えば問題はありません」
 
と対比する形で
 
「一方、手形払い時の下請代金の額から、(1)や(2)のように割引料相当分や資金調達に必要な短期調達金利相当額等を差し引いて、一方的に通常の対価より低い下請代金の額を定めた場合は、下請代金法の「買いたたき」に該当するおそれがあります。」
 
という部分が述べられていることからすると、今までの手形の金額から1円でも安くすれば買いたたきである、というのがQ&Aの趣旨である、と解釈するのが自然です。
 
この「1円でも安くしたら違反」というのは、厳しい読み方でもなんでもなくって、消費税転嫁法の買いたたきで前例があります。
 
つまり、消費税転嫁法の買いたたきの条文を下請法の買いたたきを参考に作ったときに、消費税転嫁法の買いたたきは、
 
「商品若しくは役務の対価の額を
 
当該商品若しくは役務と同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価に比し低く定めることにより、
 
特定供給事業者による消費税の転嫁を拒むこと。」
 
と定義されることになりました(消費税転嫁法3条1号)。
 
ここで、下請法は「著しく低く」なのに、転嫁法は「低く」なのは、転嫁法の場合には消費税増税分満額上乗せして支払わないといけないのだ(1円でも安くしたら違反)、と説明されました。
 
そのことは消費税転嫁法ガイドラインに、
 
「「同種若しくは類似の商品若しくは役務に対し通常支払われる対価」とは,
 
通常は,特定事業者と特定供給事業者との間で取引している商品又は役務の消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額をいう。」
という形で明記されています。
 
消費税転嫁法のような「通常支払われる対価に比し低く定める」という条文でなぜ、増税分満額上乗せしないと違反になるのか、はなはだ理解に苦しむところところです。
 
このような条文なら、まず、増税前の対価が「通常支払われる対価」であったことの立証が必要になる、と考えるのが当然だと思います。
 
公取委の説明会でも、ある弁護士さんが、どうしてこの条文でこんな風に解釈されるのか、文言に照らしておかしいじゃないか、というたいへんごもっともな質問をされていました。
 
転嫁法の買いたたきの条文は、とてもへんな条文で、なぜこうなったのかというと、立案担当者が自分の頭で考えることができない人だったために、下請法の条文を下敷きに作ることしかできなかったからです。
 
それ以外の理由はありえません。
 
ちょっと脱線しましたが、要するに、「著しく」という文言があるかないかで、これくらい解釈が変わってしまうという先例が、転嫁法のときにすでにあるわけです。
 
そういう目で見ると、上記Q&Aも、明らかに意図的に「著しく」を省略し、1円でも安くしたら違反に問うという明確な意図をもって公表されたものであることが明らかに思われるのです。
 
しかし、いうまでもなく日本は法治国家ですから、通達で条文を書き換えるなんて、とんでもないことです。
 
この通達と同じころ、下請法の買いたたきの執行を強化する目的で下請法の運用基準と下請法テキストの改定がなされ、買いたたきの事例が大幅に増えました。
 
しかしそれでも、どの事例をみても必ず「著しく低く」と入っていました。
 
ところがこんなQ&Aのような目立たないところで「著しく」を、勝手に削除してしまっているわけです。
 
安倍内閣主導であれば何でもあり、という現政権の態度が非常によく表れていると思います。
 
こういう欺瞞をみると、下町ロケットを使った日経全面広告も、とても嘘くさくみえてしまいます。
 
また理屈で考えても、一般的に、大企業である親事業者の社内調達金利は中小企業である下請事業者の社内調達金利よりも低いので、親事業者の社内調達金利相当額を引かれても、その分早く現金が受け取れる中小企業にはお釣りがくる、とすらいえるのであり、1円でも差しい引いたら「通常」の対価より「低い」というのも、無理があります。
 
というわけで、このQ&Aは下請法の解釈を誤ったものですから、無視するほかないと考えます。
 
いまの行政はこういうことを平気でやるので、常に厳しい目で監視していかなければなりません。

別途支払を(利益提供要請ではなく)減額とする公取委の運用変更の整理

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少し前に、下請代金からの差し引きだけではなく別途支払わせる場合(従前の解釈では不当な利益の提供要請だった)も代金減額になるという公取委の解釈変更があったことについて書きました
 
このあたりの経緯について、公取委への批判を込めて、整理しておきます。
 
まず、下請法講習テキストをたどると、平成25年版のテキストまでは、代金減額は下請代金から差し引くものが該当することを当然の前提とする記述がなされていました。
 
たとえば平成25年テキストp44では、「減額の考え方」のところで、
 
「・・・3条書面に記載された下請代金から減じるものであれば減額として問題となり得る」
 
と記載されていました。
 
「違法な下請代金の減額の例」(p45)をみても、いずれも、下請代金から差し引くものばかりでした。
 
ところが平成26年版のテキストでは、
 
「下請代金の額を「減ずること」には、下請代金から減額する金額を差し引く方法のほか、親事業者の金融機関口座へ減額する金額を振り込ませる方法等も含まれる。」(p46)
 
という一文が加えられ、最新版にも引き継がれています。
 
また下請法運用基準のほうをみると、平成25年版テキストに添付されている当時の運用基準では、3(1)の減額の具体例は、すべて下請代金から差し引くものばかりでした。
 
運用基準については、前記の一文が加えられた平成26年版テキストに添付の運用基準でも、すべて差し引き型だけでした。
 
平成28年の運用基準までは、同様に、すべて差し引き型でした。
 
ところが平成29年テキスト添付の運用基準に
 
「ケ 毎月の下請代金の額の一定率相当額を割戻金として親事業者が指定する金融機関口座に振り込ませること。」
 
という、別途支払型の具体例が、はじめて付け加えられました。
 
(ただこれは、支払金額が下請代金の一定率であることから、下請代金との密接な関連があることが、別途支払型でも減額となることの理由になっていると読むこともできそうな気もします。)
 
許しがたいことに、公取委担当者の解説である、
 
粕渕他編著『下請法の実務〔第3版〕』(平成22(2010)年)p131
 
では、以前このブログでも紹介したように、
 
「例えば、親事業者が下請事業者に対し決算対策協力金等の支払を行わせるとき、
 
これを親事業者が下請代金から差し引くことにより支払わせる場合には減額に該当するが、
 
下請代金の支払とは独立して下請事業者に支払わせる場合には、不当な経済上の利益の提供に該当するものとして扱われる。」
 
と明記されていたいのに、改訂版にあたる、
 
鎌田編著『下請法の実務〔第4版〕』(平成29(2017)年)p135
 
では、この部分の記述がごっそり削除されているのです!
 
これはあんまりにもひどいのではないでしょうか?
 
運用を変えて都合が悪くなったので、まさに、「臭いものに蓋」の発想です。
 
せめて運用を明示的に変えたなら、その旨の説明なり、利益提供要請との区別の考え方なりを示すべきであって、全削除(=説明拒否)なんてひどすぎます。
 
これは、別途支払型を減額としてしまうと、不当な利益の提供要請との区別を説明できなくなることを、如実に表しています。 
 
この点、長澤先生のベストセラー
 
『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析〔第3版〕』
 
では、不当な利益の提供要請との区別の(公取委運用にしたがった)基準の整理についても、
 
「その基準は明確ではないが、発注代金の額に一定率を乗じて得た額を徴収する場合には、代金控除であれ別途の支払であれ、対価の減額と取り扱われる傾向がある」(p206)
 
と、説得力をもって論じられています(ただし長澤先生ご自身は、別途支払型を減額とするのには反対)。
 
なお、
 
「その基準は明確ではないが」
 
といわれているのは、たとえば下請法運用基準7-1(3)で、上記基準に反して、
 
「親事業者は,食料品の製造を下請事業者に委託しているところ,取引先に支払っているセンターフィーの一部を負担させるため,下請事業者に対し,センターフィー協力費として,下請代金の額に一定率を乗じて得た額を提供させた。」
 
というのが不当な経済上の利益の提供要請だとされていることなんかを意識されているのではないか、と思われます。
 
また実際の勧告事例については、同書のp206の脚注323によると、どうやら、平成18(2006)年10月27日のイズミヤ事件が別途支払を減額にした最初の事例みたいですが、同様の運用が平成24年頃から増えていることがわかります。
 
なお、私も、別途支払型まで減額で処理するのは問題だと思います。
 
「減額」という文言とこれまで積み上げてきた実務も大きな理由ですが、実質的に考えても、差し引き型と別途支払い型では下請事業者への不利益が大きく異なります。
 
つまり、差し引き型(=ほんらいの減額)では、下請事業者に有無を言わせず下請代金を減額して支払うわけですから、下請事業者の資金繰り次第では倒産すらしかねません。
 
これに対して別途支払い型の場合には、いちおう下請事業者に「別途支払う」という任意のアクションがあるわけですから、手持ちの現金がなければ支払えないはずであり、現に支払えてるということは少なくとも倒産するまでの影響はなかったわけです。
 
このように、差し引き型と別途支払い型は、質的に異なるのです。
 
それが従来の公取委の解釈の実質的な根拠だったのではないでしょうか?
 
それからもう一つ、有償支給材の早期決済の条文との対比があります。
 
つまり、有償支給材の早期決済(下請法4条2項1号)では、
 
「自己に対する給付に必要な半製品、部品、附属品又は原材料(以下「原材料等」という。)を自己から購入させた場合に、
 
下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、
 
当該原材料等を用いる給付に対する下請代金の支払期日より早い時期に、
 
支払うべき下請代金の額から当該原材料等の対価の全部若しくは一部を控除し、
 
又は
 
当該原材料等の対価の全部若しくは一部を支払わせること。」
 
というように、下請代金から控除する場合(差し引き型)と、支払わせる場合(別途支払型)とを、明確に区別しているのです。
 
たしかに、早期決済の方は「控除」という文言を使い、代金減額では「減額」という言葉を使っていて、両者は異なるのですが、異なることに大きな意味はないというべきでしょう。
 
平成30年版下請法テキストp75でも、「控除」という言葉を使った理由として、
 
「これ〔=控除〕は,民法上の相殺が成立したか否かとは関係がなく,そのため,「相殺」という民事法上の用語ではなく,「控除」という一般的な用語が用いられている。」
 
と説明していて、 民法上の相殺ではないことを示すだけの意味であって、「減額」と区別する意味があるわけではありません。
 
このように、早期決済でわざわざ差し引き型と別途支払型を明示的に区別しているのですから、代金減額でいう「減額」は差し引き型に限ると考えるのが自然です。
 
以上、別途支払型を減額として処理する解釈変更について整理しました。
 
やはり平成26年テキストが、ひとつのターニングポイントになっているようです。
 
それにしても、こんな大事な解釈変更を、なんら明示的な(=変更であることを明示しての)アナウンスもなくやってしまうのもひどい話だし、公取委担当者解説書にいたっては、論点自体存在しないことにしてしまうなんて、ほんとうにひどいと思います。

下請法に司法審査が及ばないことの恐ろしさ

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下請法のよくないところの一つに、公取委の判断に司法審査が及ばないことがあげられます。
 
というのは、公取委の出す勧告は、いわゆる行政指導に過ぎず、それ自体強制力がないため、勧告を取り消す訴訟を提起することができないからです。
 
条文で確認すると、勧告についてはまず下請法7条1項で、
 
「公正取引委員会は、親事業者が第四条第一項第一号〔受領拒否〕、
 
第二号〔支払遅延〕又は
 
第七号〔報復措置〕
 
に掲げる行為をしていると認めるときは、
 
その親事業者に対し、
 
速やかにその下請事業者の給付を受領し、
 
その下請代金若しくはその下請代金及び第四条の二の規定による遅延利息を支払い、又は
 
その不利益な取扱いをやめるべきことその他必要な措置
 
をとるべきことを勧告するものとする。」
 
と定められています。ほかの違反類型は2項、3項で定めています。
 
そして勧告の効力については8条で、
 
「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)第二十条〔不公正な取引方法に対する排除措置命令〕
 
及び
 
第二十条の六〔優越的地位の濫用に対する課徴金納付命令〕
 
の規定は、
 
公正取引委員会が前条第一項から第三項までの規定による勧告をした場合において、
 
親事業者がその勧告に従つたときに限り、
 
親事業者のその勧告に係る行為については、適用しない。」
 
とされています。
 
つまり、勧告に任意にしたがう限り独禁法の優越的地位の濫用で処分されることはない、ということです。
 
これ以外に勧告の効力についての規定はありません。
 
たとえば勧告に違反した場合に罰金が科せられるというような規定はありません。
 
これが、勧告は行政指導に過ぎない、という根拠です。
 
なので、勧告それ自体の取り消しを裁判所に求めることはできず、勧告は司法審査の対象にならない、ということになります。
 
そこで、勧告に不服のある事業者は勧告に従わない、という選択肢しかありません。
 
ですが、そうすると次に起こりうるのは公取委による優越的地位濫用の審査です。
 
その結果、「下請法違反はあったけれど、優越的地位の濫用はなかった」という結論になるかもしれません(もしそうなら、そもそも審査が開始されないかもしれません)。
 
それなら、なにも処分なし、なのでいいかというとそういうことでもなくて、勧告がでたという事実は残ります。
 
当然、公取委のホームページや年次報告にも、そのまま残るでしょう。
 
あるいは、審査の結果、優越的地位濫用が認められる、ということもあるかもしれません。
 
ところが、そのときに、優越的地位の濫用で受けた排除措置命令や課徴金納付命令に不服だと言っても、下請法の論点はどこにも出てこないのです(優越的地位の濫用で命令が出ているので当然です)。
 
当然、排除措置命令や課徴金納付命令の取り消し訴訟を起こしても、下請法の論点を争う余地はありません。
 
たとえば、有償支給材の早期決済の禁止に違反したとして勧告を受けた場合、その勧告に不服があっても、裁判で争点になるのは優越的地位の濫用が成立するかどうかだけ、です。
 
そして、たんに有償支給材の決済が製造委託商品の決済より早かったというだけで「濫用」になるというのはかなり無理があるので、優越的地位の濫用は成立しない可能性が高いと言えます。
 
処分されないんだからそれでよさそうなものですが、問題は、公取委が独禁法の調査の対象を広げてくる可能性があることです。
 
もし事業者が勧告に不服で「したがいません」といえば、公取委は、そんな前例を残したくないでしょうから、何が何でも優越的地位の濫用で摘発しようとするでしょう。
 
そのときに、調査の対象を当初の勧告対象行為に絞らなければならないというような(刑訴法で言えば訴因変更の限界のような)制限は、法律上、なにもありません。
 
そうすると、事業者としては、自社のどこをつつかれても優越的地位の濫用にあたる行為はないという自信がない限り、勧告に従わないという選択肢をすることを躊躇することになると思われます。
 
そして、徹底的に社内調査をして大丈夫だと結論付けたうえで「したがいません」といっても、前述のとおり、争いたい論点については裁判所の判断を得られない、ということになります。
 
そのため、下請法の公取委の判断に対する判例というのはなく(民事訴訟で下請法違反を公序良俗違反として争点化したものは多数ありますが)、下請法講習テキストがあたかも判例と同じような役割を果たすことになります。
 
もしどうしても司法審査をえたければ、勧告で信用が損なわれたなどとして国家賠償請求を起こすことくらいしかありません。
 
このように司法審査がはたらかないだけに、下請法の運用は公取委の自制が求められるはずで、安易な運用や解釈の変更は行うべきではありません。
 
ところが、実際には、
 
下請事業者に下請代金の支払とは別途金銭の支払をさせることを(不当な経済上の利益の提供要請ではなく)代金減額として処理したり、
 
従来手形払いだったのを現金払いに変えたときに変更後の取引について従来より1円でも代金を安く設定したら買いたたきにあたるとしたり、
 
有償支給材の早期決済分の利息の支払を指導したりする
 
など、やりたい放題です。
 
そういった下請法独自の争点について争いたくても、裁判所で争う道は事実上ないなのです。
 
やるとすれば国家賠償ですが、国家賠償は立証責任が国民側にあるなど、簡単ではありません。
 
しかしそもそも、勧告がたんなる行政指導であるということすら、一般にはあまり知られていないのではないでしょうか。
 
なので、優越的地位の濫用には当たらない(たとえば代金減額について下請事業者の同意がある)と考えれば、勧告に従わないという事業者がいてもおかしくないと思うのですが、おそらく今までそういう事例はありません。
 
司法審査が及ばない制度というのは法治国家としてどうかと思いますが、法律は国会が決めるものなので公取委の責任ではありませんから、どうこういってもしかたありません。
 
ですが、公取委は司法審査を免れるという重い責任を自覚して、下請法担当部署に優秀な人材を配置するなど、慎重な運用をすべきではないかと思います。

会員登録者にクレジットカード番号を記入させてする懸賞企画に関する公取委回答

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公正取引615号(2002年1月)37頁「景品表示法相談コーナー」(公正取引委員会事務総局経済取引局消費者取引課)に、
 
「当社は、インターネット上でショッピングサイトを運営し、入会無料の会員サービスを行っている。会員登録してくれた人を対象に抽選で景品を提供したいが、オープン懸賞とすることは可能でしょうか。」
 
という質問があります。
 
これに対して、平成13年4月の「インターネット上で行われる懸賞企画の取扱いについて」を引用しつつ、
 
「入会無料の会員登録に際しての景品提供は、その時点で取引を伴うものではありませんので、原則として、オープン懸賞と認められます。」
 
と回答されています。
 
ここまではいいのですが、問題はその次で、
 
「ただし、入会に際して、クレジットカード番号の入力を要件とする等取引そのもに結びつく情報提供を会員登録において要求される場合には、取引に付随した景品提供としてオープン懸賞とは認められません。」
 
と回答されています。
 
しかし、これは間違いです。
 
控えめに言って、上記通達に反します。
 
上記通達では、これ以上ないくらい明確に、
 
「消費者はホームページ内のサイト間を自由に移動することができることから,懸賞サイトが商取引サイト上にあったり,商取引サイトを見なければ懸賞サイトを見ることができないようなホームページの構造であったとしても,懸賞に応募しようとする者が商品やサービスを購入することに直ちにつながるものではない
 
したがって,ホームページ上で実施される懸賞企画は,当該ホームページの構造が上記のようなものであったとしても,取引に付随する経済上の利益の提供に該当せず,景品表示法に基づく規制の対象とはならない(いわゆるオープン懸賞として取り扱われる。 )(図1-1及び図1-2)。
 
ただし,商取引サイトにおいて商品やサービスを購入しなければ懸賞企画に応募できない場合や,商品又はサービスを購入することにより,ホームページ上の懸賞企画に応募することが可能又は容易になる場合・・・には,取引付随性が認められることから,景品表示法に基づく規制の対象となる。」
 
と明記されているからです。
 
取引付随性が認められるのは、商品購入を応募条件にする場合や、購入で応募が容易になる場合に限られる、とはっきり言ってます。
 
カード番号を入力させるだけで取引付随性が生じるなんてどこにも書いていません。
 
解釈論としても、カード番号を入力させるだけで取引付随性ありなんて、どうかんがえても無茶です。
 
カード番号を入力しただけで、そのうち多くの人が買い物するだろうなんて、なんの根拠もありません。
 
公取委のガイドラインをみても、ここまでゆるやかに取引付随性を認めている例はありません。
 
せいぜい、来店者とか、商品パッケージで企画を告知する場合が載っているくらいです。
 
カード番号だけで取引付随性ありなんて言い出したら、インターネットの無料の会員登録の多くが懸賞規制の対象になり、前記通知が骨抜きになってしまいます。
 
というわけで、この取引課の回答はまちがいですから、無視するほかないと思います。

有償支給材の早期決済と資材代金調達利息の支払

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NBLの連載を書籍化した
 
鎌田明編著『はじめて学ぶ下請法』
 
という本があります。
 
『下請法の実務』や下請法講習テキストが、古い考え方に接ぎ木をしながら改訂を続けているために根本的に叙述の仕方が古い(説明が理論的でない)のですが、それに対してこの本は、さすがに新しいだけあって、説明が現代的で頭にすっと入ってきます。
 
ですが、ちょっと気になる記述があります。
 
同書p135の有償支給材の早期決済の説明において、A〔発注者〕がB〔下請事業者〕に原材料を有償支給して加工を委託する事例をあげながら、
 
「B〔下請事業者〕が金融機関から融資を受けて先払いをしなければならない資材の対価を支払っていたような場合には、Bが負担していた利子相当額の支払い等も認められることになろう。」
 
と解説されています。
 
しかし、これは行き過ぎだと思います。
 
いったいどんな根拠があって、そのような利子相当額の支払いが認められるのでしょうか?
 
民法をみても、商法をみても、そのような利息相当額の支払いを根拠づける条文はありません。
 
当事者間に合意がなくても認められる利息についての規定としては民事商事の法定利率の規定がありますが、たとえば民法404条では、
 
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。」
 
としているだけであって、5%の利息が認められるのは「利息を生ずべき債権」であることが前提です。
 
利息を生ずべき債権かどうかは特約や法律の規定(民法575条2項の売買代金の利息)によって決まり、金銭消費貸借ですら、当然には利息は発生しません(民法587条、590条参照)。
 
ただし商人間の消費貸借では年6%の利息を支払う必要があります(商法513条、514条)。
 
でも、「下請事業者が有償支給材を早期決済するために融資を受けたときには融資の利息相当額を支払う」みたいな規定は、どこにもありません。
 
もちろん当事者間に合意もないわけですから、そんな利息相当額の請求権なんて、私法上認められるはずがないのです。
 
下請法違反は公序良俗(民法90条)違反だから請求が認められる、というのも無理です。
 
まず、下請法違反のすべてが当然に公序良俗違反になるわけではないですし、仮に公序良俗違反になっても、公序良俗違反の法律行為の効果は無効になるだけなので、積極的な請求権が発生するわけではありません。
 
たとえば、早期決済の合意が無効だとしたら、弁済期の合意の部分が無効になって、弁済期が下請代金の支払時期まで当然に延ばされる、ということはあるかもしれません。
 
ですがだからといって、下請代金の支払時期よりも前に現に有償支給材の代金を支払ったからといって、その早く支払った分の利息を下請事業者が請求できる(積極的な請求権が生じる)わけではないでしょう(公序良俗は「無効」にすぎないので)。
 
まして、有償支給材代金支払いのための銀行融資の利息なんて、認められるわけがありません。
 
ほかに考えられるとしたら、民法709条の不法行為や703条の不当利得でしょうが、下請法違反が当然に不法行為や不当利得になるわけでもないでしょう。
 
ここのハードルを越えるのは非常に高い(たぶん無理)わけです。
 
それなのに、何の説明もなく当然に、「利子相当額の支払も認められる」といってしまうなんて驚きです。
 
こんなこと、法学部生でもわかります。
 
ということで、公取委の下請法の運用をしている人が、いかに民法を知らないか、これをみるとよくわかります。
 
最近、有償支給材の早期決済をした会社が、早期決済期間について、有償支給材代金の利息相当額を商事法定利率6%で下請事業者に払い戻すよう指導を受けていた事例を目にしました。
 
きっと、下請代金の支払いが遅れたら6%の利息を払うんだから、有償支給材代金を早くもらいすぎたなら利息相当額を払い戻す義務があるんだ、という単純な発想でしょう。
 
でも民法をみても商法をみても、弁済期より早く代金を受け取ったら利息相当額を代金から引かなきゃいけないなんていいう規定はありません。
 
というわけで、上記書籍の記述は誤りですし、公取委はこの運用を直ちにやめるべきです。
 
民法の分かっていない人には、こんな大学生にするような説明からしないといけないので困ります。

公取委に出向中の弁護士のみなさん、下請取引調査室の人たちに、民法を教えてあげてください。
 
あるいは公取委職員のみなさんは、出向してきている弁護士さんに聞いてみてください。

不当表示の再発防止策を実施済みの事業者に出す措置命令

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不当表示については、事業者がすでに不当表示をやめていても、措置命令を出すことができます(既往の行為に対する措置命令)。

このことは、景表法7条1項で、

「内閣総理大臣は、第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。その命令は、当該違反行為が既になくなつている場合においても、次に掲げる者に対し、することができる

一 当該違反行為をした事業者

〔以下省略〕」

と明記されています。

ちなみに独禁法の不当な取引制限に対する排除措置命令は、独禁法7条2項で、

「公正取引委員会は、第三条又は前条の規定に違反する行為が既になくなつている場合においても、特に必要があると認めるときは、第八章第二節に規定する手続に従い、次に掲げる者に対し、当該行為が既になくなつている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる。ただし、当該行為がなくなつた日から五年を経過したときは、この限りでない。

一 当該行為をした事業者

〔以下省略〕」

とされていて、「特に必要があると認めるとき」という条件付ではありますが、やはり既往の行為に対しても出すことができます。

つまり景表法の場合は、「特に必要があると認めるとき」でなくても、措置命令を出すことができるのです。

では不当表示をやめた事業者が再発防止策を実施して、措置命令で命じられそうな措置をすべて先回りして講じておけば措置命令はでないのかというと、そんなことはありません。

まず、上述のとおり、景表法には「特に必要があると認めるとき」という要件がありません。

それに、事業者が任意で措置を講じたのと、命令の強制力のもとで実施するのとでは、意味がちがいます。

つまり措置命令の場合には、それに違反すれば2年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科あり)の対象になりますが(景表法36条)、任意の措置ではそのような担保がありません。

措置命令ではたとえば、

「貴社は、今後、本件商品又はこれらと同種の商品の取引に関し、前記の表示と同様の表示を行うことにより、当該商品の取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示をしてはならない」

というような、将来の行為の禁止も命じられるので、これを刑事罰で担保するのかしないのかは大違いです。

したがって、仮に事業者がすでに任意でとった措置を超える措置を命じない場合であっても、措置命令の必要がないことにはなりません。

ましてや、一般消費者への周知が不十分である(たとえばホームページの見えにくいところにこっそり公表する)場合には、措置命令がでても何らおかしくありません。

というわけで、措置命令を避けるためには、公表もしっかりやるし、再発防止策も万全を期する必要があります。

それでも将来の禁止を刑事罰で担保する必要があると消費者庁が考えれば、やはり、措置命令が出る可能性はあると思われます。

平等原則違反だとか、裁量の逸脱だとかいっても、たぶん無理でしょう。

いちど違反をしてしまっている以上、刑事罰などの法的な担保が何もなくても再発しない、というのはかなりしんどいと思います。

コンビニの24時間営業に優越的地位の濫用を適用するとの報道について

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本日(4月24日)の朝日新聞の報道によると、公取委がコンビニの24時間営業に対して優越的地位の濫用を適用する方針を固めたそうです。

「公取委の複数の幹部によると、バイトらの人件費の上昇で店が赤字になる場合などに店主が営業時間の見直しを求め、本部が一方的に拒んだ場合には、独禁法が禁じている「優越的地位の乱用」にあたり得る、との文書をまとめた。」

のだそうです。

とんでもないことだと思います。

これは、フランチャイズシステムによる24時間営業のコンビニというビジネスモデルそのものを否定する暴挙です(あえて強い言葉を用いる必要があると考えます)。

そもそも優越的地位の濫用は、それがなぜ「競争」に悪影響をあたえるのかの理論づけがはっきりしておらず、取引先に不利益をあたえる事業者ががそうでない事業者よりも競争上有利になるのがいけないのだとか、苦しい説明がなされているところです。

また、濫用による競争はめぐりめぐって消費者のためにもならないんだ、という、これもよく意味がわからない説明がなされることもあります。

これらの説明自体、競争への影響の理論(theory of harm)として不十分なものであり、結局、優越的地位の濫用はたんなる弱い者いじめなのだという理解が一般的です(たんなる弱い者いじめであるかぎり、いじめられた事業者は他の取引先に乗り換えればいいだけなので、競争には無関係です。有利な取引先に乗り換えるのがまさに競争なのですから)。

ところが、コンビニの24時間営業はこの2つの説明すら成り立ちません。

まず、現状、ほぼ全てのコンビニが24時間営業をしています。24時間営業をしないコンビニが競争上不利になっている、という事実がありません。

また、24時間営業は消費者に歓迎こそされていても、不利益を与えているということはありません。

わたしが小学生のころ、ローソンが出始めのころのCMで、小学生が絵の具を買い忘れたことに朝気づいて、どうしようか困ったときに、

「そうだ、ローソンがある!」

といって、ローソンに絵の具を買いに行くCMがありました。

まさにそういう経験を何度もしていた小学生のわたしとしては、これは非常にインパクトがありました。

それくらい、当時は24時間営業のコンビニというのは衝撃的だったのです。

(余談ですが最近わたしにヒットしたCMはアマゾンのCMで、孫が独り暮らしのおばあちゃんに久しぶりに会いに行って、おばあちゃんが若いころ死んだおじいちゃんとバイクに乗った写真に写っていたのと同じヘルメットをアマゾン・プライムで注文して、おばあちゃんをバイクでドライブに誘う、というのがあります。今思い出しても胸が熱くなります。このCM作った人は天才じゃないかと思いました。60秒バージョンもよいです)

閑話休題。

20年ほどまえ、和光の司法研修所の寮に住んでいたころは、近くにコンビニがなくって、コンビニっぽい個人経営の雑貨屋は夜8時くらいには閉まってしまって、本当に不便だなぁと思いました。

人間慣れというのは怖いもので、24時間営業のコンビニがあたりまえになると、これがビジネスのイノベーションとしていかにすごいものであったか(社会を一変させたか)を、忘れてしまうのです。

人手不足の世の中であるのはわかりますが、それを独禁法でなんとかしようというのは最悪です。

そもそも24時間営業の規制なんて、競争とは何の関係もありません。

むしろコンビニ業界が「24時間営業はやめましょう」と合意したら、カルテルになりかねません。

また独禁法は、本質的に、ルールが不明確にならざるをえません。

かといって、国会のチェックも経ていない公取委のガイドラインで決めてしまっていい問題でもありません。

規制するなら、フランチャイジーの保護を目的とした特別の立法でやるべきで、夜10時から朝5時までの営業を禁じるとか、明確に違法の要件を定めるべきでしょう。

ちょっと、この問題については、公取委は調子に乗りすぎじゃないでしょうか。

また優越的地位の濫用でやる場合、公取委はけっして排除措置命令は出さず、注意か、せいぜい警告にとどめるはずです。

なぜかというと、裁判所で争われると困るからです。

ひっとしたら、実態調査報告書を出して、その中にルールらしき「公取の独り言」を紛れ込ませるかもしれません。

それを新聞は「公取委がコンビニについてガイドラインを公表」と、誤った報道するかもしれません。

こういう不透明な法運用を、いまや国民生活のインフラであるコンビニに対して許していいとは思えません。

万が一、排除措置命令が出たら、徹底的に、最高裁まで争うべきです。

まだガイドラインにもなっていないので、なんとしてもこの動きは阻止すべきです。

それから、こういう何でも優越的地位の濫用にあたるという執行をやっていると、公取委が、それで自分たちは仕事をしているのだと錯覚してしまうことも懸念されます。

わたしがある依頼者から以前相談を受けた忠誠リベートの公取委への申告案件(申告自体は別の法律事務所が担当)では、結局、証拠がないから調査開始しないという結論だったらしいのですが、排除されている側が忠誠リベートの(噂や伝聞レベルを超えて)確たる証拠なんて得られるはずがないのであって、いったい何のための強制調査権限なんだ、と思いました。

こういう、手ごわそうな相手にはやるべきことをやらないで、いうことを聞きそうな業界にはガイドラインにもとづく注意でお茶をにごすというやりかたは、いいかげんやめたほうがいいと思います。

理論的にも今回の問題は、大きな問題です。

なぜなら、フランチャイジーになろうとする人は、24時間営業だとわかってフランチャイジーになっているからです。

24時間営業はコンビニのビジネスの根幹です。

これほど明確に合意されているものを、やってみたら思ったより大変だったから「濫用」だというのは、ありえないでしょう。

トイザらス審決での濫用行為の定義は、優越的地位がなければ受け入れないような不利益な行為、ということですが、それにそもそもあてはまりません。

優越的地位が発生する、契約成立前で契約するかしないか完全な自由のある段階で受け入れた行為だからです。

一体どういう理屈で濫用だというのでしょうか??

これだけ世の中に広く受け入れらているビジネスが、「正常な商慣習に照らして不当」になりうるとでもいうのでしょうか??

まったくわけがわかりません。

報道をみて公取がいちおう理屈を考えているんだなあと推測できるのは、

「バイトらの人件費の上昇で店が赤字になる場合など」

という部分です。

つまり、契約時と事情が変わった、という理屈です。

似たような理屈としては、下請法で、原材料費が上がったのに値上げに同意しようとしないのが買いたたきにあたる、というのがあります。

でも、これもやっぱり問題です。

というのは、原材料費の場合、基本的には変動費用が想定されていますから、値上げしないとどんなにがんばっても(たくさん売っても)赤字になります。

下手をすれば、売れば売るほど逆ざやで赤字が膨らみます。

でもそういう場合なら、値上げに応じないと買いたたきにあたるというのは理解できます(それが競争法として妥当かはさておき、下請法の解釈としては)。

ですが、コンビニの人件費なんて基本的には固定費なわけです。

ここには、「商品を売れば売るほど赤字が膨らむ」という関係はありません。

たしかに24時間営業をやめれば赤字の時間帯のバイト代を節約して、その時間帯の売上を失ってもなお、収益はプラスになる、ということはあるでしょう。

でもそれを言い出したら、とくに損益ギリギリのお店の場合は、儲かる時間だけお店を開けたい、という理屈が簡単に通ってしまい、コンビニというシステム自体がなりたちません。

そういうわけで、原材料費の高騰の場合の類推から人件費の高騰を例示しているなら、まったく不当な類推です。

というわけで、ちょっと経済学というか会計の知識があれば、原材料費(変動費)と人件費(固定費)を同列にあつかうことのあやうさに気づくはずです。

さらにいえば、下請法の世界では特定の原材料が短期間に2倍にも3倍にも上がるということがありますが、いくら人手不足とはいえ、人件費はそこまで上がってないでしょう。

そういう意味でも、両者を同列にあつかうのは妥当ではありません。

それに、「赤字になる場合など」の「など」がくせ者で、たぶんどのようにでも拡大解釈できるガイドラインになるはずです。

このようにいろいろ考えるとコンビニビジネスに対する萎縮効果は相当なものであるはずです。

こういう動きがあると独禁法弁護士は仕事が増えていいのですが(笑)、社会的には、笑い事ではすまされないことだと思い、苦言を述べさせていただきました。


二重価格表示の「過去8週間の過半」の基準時

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わたしは二重価格表示が適法となる要件について、

①比較対照に用いる価格(「通常価格」)での販売期間が通算2週間以上、かつ、

②セールの各時点において、その時点から遡る8 週間において、「通常価格」で販売されていた 期間が当該商品の販売期間の過半数を占めており、かつ、

③「通常価格」で販売された日からセール開始時 までに2週間経過していないこと

と説明することが多いのですが(たとえば公開されているものとして東京都のセミナーのスライドの39頁をご覧下さい)、これの②について、価格表示ガイドラインでは

「一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるものとする」

とされているので、「セールの各時点」は「セール開始時点」の間違いではないか、という指摘をたびたび受けます。

セミナー等では時間の関係もあり、「とにかくこの3つの要件だけ、覚えてください」といって理屈を説明しないので、こういう質問が出てしまうのもしかたないなと常々反省しており、今日はこの点についてきちんと説明したいと思います。

実はこの点については、大元他『景品表示法〔第5版〕』(緑本)101頁では、

「・・・最近相当期間価格と認められるためには、

・ 当該商品の販売期間の過半を占めていること(要件a)

・ その価格での販売期間が2週間未満でないこと(要件b)

・ その価格で販売された最後の日から2週間以上経過していないこと(要件c)

の3つの要件を満たすことが必要であると整理できる。」

と整理されており、そのうえで、

「これらのうち要件a〔過半の要件〕とc〔2週間以上経過していないこと〕については、時間の経過によって要件該当性の基礎となる事情が変化していくものであるため、要件の成立時期について、二重価格表示が行われるセールの開始時点で成立していれば足りるのか、それとも、セールが終わるまで常に成立していなければならないのかが問題となる。」

と問題提起されています。

そしてさらに続けて、

「例えば、過去8週間継続して同じ価格で販売してきた商品について、当該価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合、

セールの開始時点では当該比較対照価格は要件aからcを全て満たしているが、

セール期間が2週間となった時点で要件c〔最後の日から2週間以上経過していないこと〕を満たさなくなり、

さらに、セール期間が4週間となった時点で要件a〔過半の要件〕も満たさなくなる(セールが始まった4週間の時点で過去8週間をみると、比較対照価格での販売期間が4週間、セール価格での販売期間が4週間となって、前者〔比較対照価格での販売期間〕が「過半を占める」状況が失われてしまう)が、

このような場合〔要件cについてはセール期間が2週間を超えた場合、要件aについてはセール期間が4週間を超えた場合〕に二重価格表示を継続することが景品表示法上問題とならないのであろうか。」

という形で問題提起がなされ、これに答える形で、

「この点については、原則として、要件c〔最後の日から2週間経過していないこと〕についてはセール開始時点で成立していれば足りると考えられるが、

要件a〔過半の要件〕についてはセールが終わるまで常に成立している必要があり

要件a〔過半の要件〕が満たされなくなった後〔セール開始後4週間を経過した後〕は、セールを継続すること〔例えば、「通常100円のところ、60円!」というセールをしている場合に、二重価格表示をせずに60円で売り続けること〕自体は何の問題もないものの、

当初の二重価格表示を継続することは景品表示法上問題となるおそれがある。」

と、過去8週の過半の要件(要件a)はセール各時点で満たす必要があり、セール開始後4週間で過去8週中過半の要件(要件a)は満たさなくなる、と明記されています。

つまり、「過半」の要件は各時点において判断され、セール開始後4週間を経過すると「過半」の要件を満たさなくなる(各時点で過去8週間をさかのぼると、セール開始後4週間経過するとセール後の販売が過去8週の過半になってしまうから)、ということです。

なお、過去8週の過半の要件がセールの各時点で満たす必要があることは、大元100頁で、より端的に、

「この要件〔当該商品の販売期間の過半を占めていること〕は、・・・セール実施期間を通じて満たされている必要がある。」

とまとめられています。これだけ見ると少しわかりにくいですが、前述のように104頁以下の詳しい説明をみると、「セール実施期間を通じて満たされている必要がある」というのは、「セールの各時点で過去8週の過半を満たしている必要がある」という意味だとわかります。

これを短くまとめると、②の「セールの各時点において、その時点から遡る8週間において、通常価格で販売されていた期間が当該商品の販売期間の過半数を占める」という結論になります。

これは、少し考えてみれば当然のことで、たとえば「通常100円のところ、60円!」という表示をした場合、消費者はセールがいつ始まったかなど(開始時を明記しない限り)知るよしもありませんから、それを見た消費者は、その表示を見た時点において「通常は100円なのだな」と認識するわけです。

「通常」は、過去8週間の過半とされているので、消費者が表示を見る各時点(=セールの各時点)において、各時点からさかのぼる8週の過半でなければ、消費者の上記認識とずれてしまいます。

また、セール開始時に「過去8週の過半」を満たせばいいのだとすると、二重価格表示を何年も続けてよいことになり、これはあきらかに不合理です(2年も3年も前の価格を「通常価格」というのはむりです)。

では二重価格表示を4週間を超えて行いたい場合にはどうすればいいのかというと、比較対照価格がいつの時点かわかるように表示すればいいのです。

たとえば「通常100円のところ、60円! 2019年4月1日よりセール開始」と表示すれば、100円は2019年3月31日からさかのぼる8週間の過半の価格だとわかるので、4週間を超えても問題ないと思われます。

この点については、前掲大元104頁では、前記同書引用箇所に続けて、

「ただし、二重価格表示が行われる時点で、セールの期間が明示されている場合には、一般消費者にとって価格の変化の過程が明かであり、セール期間中に要件a〔過半の要件〕が満たされなくなったとしても、直ちに問題とはならないと考えられる。」

と解説されています。

これも考え方は同じで、「通常100円のところ、60円」という二重価格表示とともに、「セール期間2019年4月1日~5月31日」と表示しておけば、比較対照価格は3月31日からさかのぼる8週間の過半の価格だとわかるから問題ない、ということです。

なお、このように理解しているのは私と緑本だけでなく、たとえば加藤他編著『景品表示法の法律相談〔改訂版〕』229頁でも、

「①の要件〔注・比較対照価格で販売された全期間が直近8週間において過半を占めること〕に関しては二重価格表示を継続している期間中は継続して充足していることが必要であるとされています。」

「そうすると、8週間連続して比較対照価格で販売した後、より安い販売価格でセールするとともに二重価格表示を行っていた場合において、セール期間が4週間を超えた時点で①の要件を満たさなくなるという事態が生じ、比較対照価格は最近相当期間価格といえなくなります。」

というように、同趣旨の解説がなされています。

というわけで、正解はあきらかなのですが、価格表示ガイドラインの記載が、

「一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるものとする」

というように、これ以上ないくらい非常に明確に書いてあるので、誤解を招くのも当然だと思います。

緑本の解説をみても、なぜガイドラインの「セール開始時点から」という文言にもかかわらず、

「これらのうち要件a〔過半の要件〕とc〔2週間以上経過していないこと〕については、時間の経過によって要件該当性の基礎となる事情が変化していくものであるため、要件の成立時期について、二重価格表示が行われるセールの開始時点で成立していれば足りるのか、それとも、セールが終わるまで常に成立していなければならないのかが問題となる。」

のか、さっぱりわかりません。

ガイドラインをみたら誰だって、文字どおり「セール開始時点から」という意味だと理解するだろうからです。

なので、このガイドラインの文言は、私はまちがいだと思います。

(しょせんガイドラインはガイドラインですから、法律の解釈として間違っていても、論理的にはなんらおかしくありません。)

あるいは、ガイドライン制定時は過去8週の過半をいつの時点でみるのかをあまり意識せず、漠然と、「セール開始時点から」とドラフトしてしまって、あとになって、まずい(これでは何年でもセールができてしまう)ことに気づいて、ガイドラインの解釈修正(緑本)という形でしのごうとしているのかもしれません。

(そんなばかなドラフトをすることなんてありうるのか、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、少なくとも当時の公正取引委員会のレベルはそんなもんです。)

というわけで、ここは非常に誤解を招きやすいところなので(というか、どうみてもガイドラインの文言がおかしいので)、ガイドラインを早急に改正すべきだと思います。

間違いを認めるのはけっして恥ずかしいことではありません。

明かな間違いでもけっして認めないのは、政治家だけで充分です。

わたしも今後のセミナー等では、「ガイドラインの文言は違う説明になっているけど、解釈でこのように(上記①~③のように)修正されています」と一言説明しようと思います。

違反事実の申告に対する最近の公取委の対応について

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最近、公取委の情報管理室にある違反事件の申告をしたのですが、申告書を提出したあとに説明のために面談の機会を入れてもらおうとしたところ、

「申告は書面でしか受け付けませんので、面談はしません」

と言われてしまいました。

いままで同様の申告では何度も会ってもらっていたので、本当にびっくりしました。

まだ申告書を読んでもらう前にいわれたので、当該事案が「箸にも棒にもかからない」からということではないと思います(個人的には、昨年いくつかった私的独占の立入事件以上に重大な案件だと思っています。)

別の弁護士さんからも、「最近の公取委は、申告しても会ってもくれない」と聞き、わたしだけじゃないんだと思いました(あたりまえですが)。

なんでも、今の担当者によると、「内部の処理は書面でするので、書面しか受け付けない」ということらしいです。

ですが、会ってみてはじめてお互いに分かることもあるわけで、こんな「書面しか受け付けない」という対応は、ちょっとありえないのではないでしょうか?

少なくとも私は今まで経験したことはありませんでした。(それとも、わたしがたまたま運がよかっただけなんでしょうか?)

申告者は、場合によっては違反者からの報復を受けるリスクを負いながら申告しているわけで、こういう対応では、ほんとうにやる気を失ってしまいます。

あまり少ないサンプルで断定的なことを言うのも何ですので、もし最近事件を申告した人で、「自分はふつうに会ってもらった」という方がいらしたら、情報を提供いただけるとありがたいです。(もちろん、「わたしも断られた」というのでも歓迎します。)

そして、もし公取委の人がこれを読んでいたら、改善を強く求めたいです。(担当者にはだいぶ抗議はしました。)

「会社法務A2Z」に寄稿しました

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第一法規の法律実務雑誌「会社法務A2Z」7月号に、

「消費者庁の厳しい目~減額化の背景と不当表示を避けるポイント」

という論文を寄稿しました。

A2z  

最近(ここ1、2年)の消費者庁は、これまでの運用ににくらべても、「えっ!」と驚くくらい厳しいものが連発されています。(まだ表沙汰になっていないものもふくめ、そういう傾向を感じます。)

弁護士のわたしがいうのもなんですが、弁護士が「あらたなリスクがある」「対応が必要だ」と雑誌などで言っているときに、ほんとうにリスクがある場合って実はそれほどなくって、こういう特集をしたいので何か注意点はないかという出版社側の都合であったり、弁護士のマッチポンプであったりすることも多いのではないかと思っています。

(こういうと、とくに国際派の弁護士さんや外国の弁護士さんから「だから日本の弁護士は意識が低くてだめだ」「もっと企業に情報提供しないといけない」とお叱りを受けそうですが、率直な感想です。)

ただ今回の景表法の論文については、ほんとうに、企業はいままでにない厳しい基準で表示を見直す必要がある、という思いをこめながら書きました。

わたしは基本的に消費者庁がどんどん景表法を執行するのには大賛成で、あやしげな商品をあやしげな広告で売っている健康食品とかテレビショッピングとかは、徹底的にやってほしいと思っているのですが、さすがに最近、ちょっと(かなり)やりすぎではないか、と思うことが増えています。

ご興味のある方はご一読いただけると幸いです。

下請法の「業として」の講習テキストの変遷

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だいぶ以前に、下請法講習テキストの「業として」の説明が変わったことについて書いたのですが、昨年の平成30年版でまた変わったので、これまでの経緯をまとめておきます。

平成25年版p9では、修理委託の類型2の説明で、「業として行う場合」という意味について、

「・・・自家使用する物品の修理を反復継続的に社会通念上、事業の遂行とみることができる程度に行っている場合に、その物品の修理の一部を他の事業者に委託する場合をいう」

と説明されていました。

他の法律での「業として」の解釈とも整合する、オーソドックスな解釈だと思います。

これが平成26年版p8では、

①「・・・社内に修理部門を設けるなど業務の遂行とみることができる程度に行っている場合・・・をいう。」

②「他方、修理に必要な技術を持った作業員が必要に応じ修理に当たるような場合・・・は該当しない。」

というように、「部門」などがないと「業として」にはあたらず、そのため、「必要に応じて」やるのでは「業として」にはあたらない、と大きく解釈が変更されました。

これが平成27年版p8、28年版p8、29年版p8でも、ほぼ維持されました。

ところが平成30年版p8では少し変わって、①が、

「事業者が,「その使用する物品の修理を業として行う場合」,つまり,他の事業者から請け負うのではなく,自家使用する物品の修理を反復継続的に行っており,社会通念上,事業の遂行とみることができる場合に,その物品の修理の行為の一部を他の事業者に委託することをいう。

例えば,自社の工場で使用している機械類,設備機械に付属する配線・配管等の修理を社内に部門を設けて行っている場合は,「その使用する物品の修理を業として行う場合」に該当する。」

というように、少していねいになったのはいいのですが、②が、

「一方,修理を行うことができる設備があったり,修理に必要な技術を持った作業員がいたとしても,他の事業者に委託している修理と同種の修理を行っていない場合は,「その使用する物品の修理を業として行う場合」に該当しない。」

と、再度大きく変更されました。

つまり、平成29年版までは、「必要に応じて」やるだけなら「業として」にはあたらないと明記されていたのですが、平成30年版では、

「他の事業者に委託している修理と同種の修理を行っていない場合は,「その使用する物品の修理を業として行う場合」に該当しない

と、同種事業を行っていない場合には「業として行う場合」にあたらない、という、いわばあたりまえのことしかいわなくなりました。

でもこれって考えてみると、「同種の修理を行っていない」なら、「業として」かどうか問うまでもなく、そもそも「行う」に該当しないわけですから、ほんとうに無意味な記載になってしまったといわざるをえません。

この変更をどうみるかはなやましいですが、基本的には、解釈の変更はないとみていいでしょう。

「社内に部門を設けて」という部分は生きているからです。

なので、「必要に応じて」やるだけなら、やはり社内に部門は設けていないので、「業として」にあたらないと考えていいと思います。

というわけで、平成30年版のこの部分の改正は、意味不明です。なんでこんな修正をしたのでしょう???

 

下請代金の「減額」の意味

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下請法4条1項3号では、下請代金の減額(下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること)が禁じられています。
この点については下請法テキスト(平成30年11月版)52頁では、
 
「親事業者が,下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに,発注時に定めた下請代金の額を減ずることを禁止するものであり,「歩引き」や「リベート」等の減額の名目,方法,金額の多少を問わず,発注後いつの時点で減じても本法違反となる。」
 
と説明されています。
 
ここでは、減額の「名目、方法、金額の多少」は問わないとされていますが、これだけでは何が減額になるのか実ははっきりしません。
 
「下請代金の額を減ずること」ということの意味が、簡単そうで実は複雑だからです。
 
たとえば、親事業者と下請事業者との間に下請取引とは別のまっとうな取引があって、その取引の代金を支払うべき親事業者が当該代金額をたまたま同時期にあった下請代金債務と相殺することは、何の問題もありません。
 
たとえば、有償支給原材料等の早期決済の禁止では、早期決済に該当しないかぎり、有償支給原材料代金を下請代金額から「控除」することが、4条2項1号の規定上明文で認められています。
 
これを条文に照らして説明すると、有償支給原材料の対価を下請代金から「控除」しても、それは別の取引の代金を支払わせているだけで下請代金はいっさいいじっておらず、よって、「下請代金の額を減ずる」ことにはあたらない、ということなのでしょう。
 
ほかの取引の代金を支払わせただけで、下請代金は全額耳を揃えて払っている、という理屈です。
 
でも、別取引の代金を下請代金から控除して支払わせるというのがすべて「減額」にあたらないと言い切ってしまうのも(少なくとも公取委の運用を前提にすると)問題です。
 
というのは、そういう説明をすると、テキストに載っている減額の典型例である「協賛金」(p52)名目の減額の場合ですら、きちんと「協賛金提供契約書」があれば、減額にあたらなくなってしまうからです。
 
「物流及び情報システム使用料」(p52)なんて、きちんと「物流及び情報システム使用契約」があって、下請事業者による親事業者のシステム利用の実態があれば、下請代金の減額というのは無理だと思います。
 
おそらくポイントは、下請契約とは別の、「まっとうな」契約があるかどうか、でしょう。
 
「まっとうな」というのは、下請事業者が利益を得ている実態がある、という意味です。
 
おそらくこれまで減額とされたもので、たとえば「手数料」(p52)名目のものは、親事業者から下請事業者に対するサービス(「手数」)の提供の実態がなかった、ということなのだと思われます。
 
その観点からみると、テキストにあげられている名目のうち、
 
「歩引き」「リベート」「一括値引き」「基本割戻金」「協賛店値引」「協力値引き」「決算」「原価低減」「コストダウン協力金」「仕入歩引」「特別価格協力金」「不良品歩引き」「分引き」「値引き」
 
などは、その名前からして下請代金自体を減らす趣旨であることがあきらかなので、おそらくその名目どおりの契約書があっても、減額になるでしょう。
 
これに対して、
 
「本部手数料」「管理料」「手数料」「物流及び情報システム使用料」「物流手数料」「品質管理指導料」
 
は、もしこれらの名目が示唆するような、本部のサービス、管理サービス、何らかのサービス(「手数」)、物流及び情報システム提供サービス、物流サービス、品質管理指導サービスが親事業者から下請事業者に提供されている場合には、減らした分はこれらサービス提供の対価であって、下請代金の額を減じたわけではない、といえそうです。
 
ただおそらく実際には、これらの名目できちんと(まっとうに)サービスが提供されていることが少ない、ということなのでしょう。
 
あるいは、なんらかの「サービス」が提供されていても、
 
「そんなものはほんらい発注者が自分の負担でやるべきものであって、下請事業者に提供した「サービス」とはいえない」
 
と公取委に一蹴されてしまうかもしれません(たとえば、請求書処理手数料とか)。
 
以上に対して、あきらかな下請代金減額の趣旨でもなく、まっとうなサービスが提供されているわけでもない、という中間的なもの(あるいは、よく意味がわからないもの)として、
 
「一時金」「オープン新店」「協賛金」「協定販売促進費」「協力金」「協力費」「販売奨励金」「販売協力金」「年間」「割引料」
 
があります。
 
しかしこれらは、仮にきちんと契約があっても、下請事業者が一方的に金銭的負担を負うものであり、(形式的には下請代金自体を減らすというにはやや難があるものの)不合理な内容であるとして、あるいは、実質的には下請代金を減らしているものとして、減額にあたるとされるのだと思います。
 
あと、「支払手数料」というのがありますが、これは、親事業者が支払処理をしたことの手数料という意味でしょうが、支払処理をするのは支払者(親事業者)の当然の義務であってそれについて対価を請求できるようなものではない、ということで、やはり、契約書や支払処理業務の実態があっても、代金減額とされそうです。
 
実はこのように、減額か否かをわけるのは、控除相当額の発生根拠なのだと思います。
 
その意味で、テキストp52で、
 
「減額の名目,方法,金額の多少を問わず」
といっているのは、 実はあたりまえで、あまり意味がありません。
 
まとめると、
 
①実質が下請代金自体を減らす趣旨のもの→違法
 
②下請契約とは別のまっとうな商品役務の提供の対価分を控除するもの→適法
 
(ただし実務では「まっとう」でないことが多い。たとえば下請代金の一定のパーセンテージを控除するような場合、「まっとうな商品役務の提供の対価」がそのように計算されるわけがないので、通常は「まっとう」でないと認定されるか、①と認定される)
 
下請契約とは別に、対価関係にある商品役務を提供することなく一方的に金銭負担を求めるもの→あきらかに違法
 
ということなんだろうと思います。
 
つまり、減額は合意があっても違法で形式的に判断されるといいながら、実際には、けっこう実質的な判断が欠かせない(まっとうな合意ならむしろ減額にあたらないのが当然)、ということです。
 
ところが公取委の事件解説などを見ると、少なくともその字面からは、まっとうな商品役務の対価(②)でも控除できないかに読める解説がよくされています。
 
たとえば公正取引823号60頁(柿本に対する勧告の解説)では、
 
「・・・下請法第4条第1項第3号は、親事業者が、下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、発注時に定めた下請代金の額を減ずることを禁止しており、
 
名目、方法、金額の多少を問わず、また、
 
本件のように親事業者と下請事業者との間であらかじめ文書又は口頭による合意があったとしても
 
下請事業者の責めに帰すべき理由がない限り、下請代金の額を減ずる場合は下請法違反となる。」
 
と解説されています。
 
しかしこれを文字どおりに読むなら、まっとうな契約(たとえば原材料有償支給契約)があっても下請代金と相殺したら違反になると読めてしまいます。
 
もちろんそれはおかしいわけで、実際には、まっとうな契約かどうかが当然に(暗黙の内に)判断されていて、まっとうでないから違法だ、としているのです。
 
そして柿本の事件は、「販売協力金」として下請代金の一定率(1~5%)を引いていた、というものだったので、まっとうな(=下請事業者が対価を支払うべき商品役務の提供が親事業者によってなされている)契約でないことがあきらかでした。
 
もっといえば、下請代金自体を減額する趣旨だった(①)ということなのでしょう。
 
上の担当官解説は下請法テキストのままで、下請法の執行では下請法テキストが金科玉条ですので、こういう解説になるのはしょうがないんだろうなあと思いますが、きちんと論理的に説明すると、この解説はあやまりです。
 
でも、「まっとう」かどうかをいちいち判断しないといけないとはっきり書くと事業者が「まっとうな契約だ」と反論しだしてたいへんなので、そこは理由では書かないことにして、解説ではあたかも、まっとうな合意があってもだめであるかのような書きぶりになっているわけです。
 
でも中には、まっとうな契約かどうかにかかわらず、あらかじめ合意があってもぜったいにだめなのだと本気で信じている公取担当者もいるかもしれません。
 
これは、下請テキストが金科玉条であるだけにやっかいですが、そういうひとには「ちゃんと自分の頭で理屈を考えてね」というしかありません。
 
このような「まっとうな」契約かどうかでひょっとしたら微妙だったかもしれないのが、2012(平成24)年9月25日の日本生活協同組合連合会に対する勧告です。
 
この事件では生協連合会がいろいろな名目で減額しており、そのうち多くは下請代金の一定割合を差し引くあきらかな減額(上記①)だったり、一方的な金銭負担をもとめるもの(上記③)だったのですが、なかには、微妙なものもありました。
 
たとえば、勧告の、
 
個々の会員からの発注数量を事前に下請事業者に連絡する場合があるところ,
 
下請事業者に対し,
 
生産支援情報」として,
 
会員に対する納入数量を記載した書面のファクシミリによる送信枚数に一定額を乗じて得た額を負担するよう要請し,
 
この要請に応じた下請事業者について,平成22年9月から平成24年4月までの間,当該金額を,下請代金の額から差し引き又は別途支払わせていた。」
 
というのは、「生活支援情報」がまっとうな情報提供だったら、代金としてもファックス1枚あたりというサービスの従量制であったことからすると、まっとうな契約だったかもしれません。
 
何が微妙かというと、
 
「個々の会員〔=単位生協〕からの発注数量を事前に下請事業者に連絡する場合があるところ」
 
という部分だと思います。 
 
もしこの情報提供が、下請事業者が取引をするうえで絶対に必要なものだったら、発注数量を知らせるなんて発注者としてあたりまえのことなので、それを「サービス」と称して下請事業者に負担させるのは「まっとうな」サービスとはいえないと思います。
 
でも勧告では、「連絡する場合がある」なんですね。
 
つまり、受発注に必ず必要な情報は別途提供されていることがうかがわれ、ここでの「生活支援情報」は、あくまでオプション的なものであることがわかります。
 
そのようなオプション的なものであって、下請事業者の同意もあり、しかも内容がきちんと有益なものであったりしたら、これは「まっとうな」サービスだと言えたんではないかと思います。
 
ほかには、
 
「自らが作成する販促物の作成費用を確保するため,
 
下請事業者に対し,
 
「販促ツール作成費用」として,
 
一定額を負担するよう要請し,この要請に応じた下請事業者について,平成22年9月から平成24年4月までの間,当該金額を,下請代金の額から差し引き又は別途支払わせていた。 」
 
というのがあります。
 
この「販促ツール作成費用」がもし、当該下請事業者の商品の販促ツールを作成する費用だったら、むしろ「まっとうな」契約であることがあきらかだと思います。
 
でもその額の定め方が「一定額」ということなので、たぶん、そういう、自己(下請事業者)の商品の販促ツール作成費用だったのではなくて、生協の販促ツール費用の全額または一部の額を適当に下請事業者にわりふっていたんではないかと思います。
 
このように、ほんらいはいろいろと実質的な判断がなされていたはずなのですが、ざんねんなことに、担当官解説(公正取引750号73頁)では、
 
「日本生協連は、これらの名目による減額を行うに当たり、いずれにおいても、事前に下請事業者から合意を得ていたが、
 
下請法においては、
 
仮に親事業者と下請事業者との間で事前に合意があったとしても
 
下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、発注時に定めた下請代金の額を減ずる行為は、
 
下請法第4条第1項第3号(下請代金の減額の禁止)の規定に違反する減額として問題となる。」
 
と、合意の内実はとわないかのような紋切り型の説明がなされています。
 
事案の解決としてはこれでよかったのかもしれませんが、これではまっとうなサービスの対価ももらえないと誤解され、下請代金と相殺すると減額になるので別途支払わせる必要がある、なんていう、とんでもないアドバイスをする弁護士さんが出てくるかもしれません。
 
(まあそれでも、「まっとう」かどうか微妙な場合には、わたしも「相殺よりは別途支払のほうがリスクは低いんじゃないですかねぇ」くらいのアドバイスはするかもしれません💦)
 
比較的最近の事件でこの点をかなり詳細に解説した担当官解説のある事件として、2018(平成30)年3月26日のサトープリンティングに対する勧告があります。
 
この事件では、「生産システム利用料」「通信回線利用料」「パソコン利用料」等さまざまな名目で減額がなされているのですが、同事件の担当官解説(公正取引812号71頁)では、
 
「生産システム利用料」(発注数量等のデータを送信する発注者の発注システムの開発費・保守改修費等について一定額を毎月下請代金枯らさし引いていたもの)
 
については、
 
「発注業務・・・は、本来、親事業者の責任において行うべきもの」
 
という理由で減額にあたるとされ、
 
「通信回線利用料」(発注システム利用にあたり自社と下請とを専用で結ぶネットワークの接続に必要な費用)
 
については、
 
「・・・一般的なインターネット回線ではなく、加入した者のみが交信できる特定のネットワーク利用に係る費用であり、サトープリンティングが下請事業者に対し、発注する行為にのみ使用されるものであった。」
 
「このため、『通信回線利用料』は、下請法第3条第1項で発注書面の交付義務を負う親事業者であるサトープリンティングが負担すべきものである。」
 
という理由で減額にあたるとされ、
 
「パソコン利用料」(発注データを下請事業者が受信するためのパソコンについて自社が指定した機器を下請事業者に貸与し、当該利用料を下請代金から指しい引いていたもの)
 
については、
 
「これらのパソコン・・・は、発注システムを稼働させるためだけに利用されているもので、サトープリンティングが下請事業者に対して発注する委託業務の実施にのみ必要となる機器類であることから、当該機器類の利用に係る費用は、親事業者であるサトープリンティングが負担すべきものである。」
 
という理由で減額にあたるとされました。
 
このように、親事業者がほんらい負担すべきものだという理由を詳細に認定していることからもわかるように、反対に、下請事業者が当然負担すべきものなら減額にあたらないことになるはずです。
 
ところが同担当官解説では、代金減額がみとめられるのは、給付の瑕疵や納期遅れなど「下請事業者の責めに帰すべき理由」がある場合にかぎられ、上記各利用料はこれにあたらないので違法だ、と説明されています。
 
でも、瑕疵や納期遅れにあたらないなら減額だというなら、手数料の性質をほんらい親事業者が負担すべきものだという必要もないはずで、この説明はまったく支離滅裂だといわざるをえません。
 
長年続いている説明とはいえ、いいかげん、きちんと事実をありのままに伝えるべきだと思います。
 
また、このブログが一部の誤解を解く助けになればと思います。
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